情報公共論 2016.06.14(授業後、公開版)

[前回の授業内容]情報公共論2016.06.07
[次回の授業内容]情報公共論2016.06.21
 
1.「情報公共論」的視点の再確認
視点1 「個人的利益(のみ)を追求すること」「特定個人(のみ)に有益であること」(private,「私」的利益の追求) vs 「社会全体の利益を追求すること」「多くの人々に有益であること」(public,「公共」的利益の追求)
抽象的には、「公共」的利益の追求と「私」的利益の追求は対立概念である。現実にも「公共」的利益の追求と「私」的利益の追求の対立はある。
とはいえ、「公共」的利益の追求と「私」的利益の追求が一般的に両立しないわけではない。個人的動機として「私」的利益の追求が主であったとしても、「広く社会全体に貢献する」こともある。「他の科学者に先駆けて自分が科学的発見をすることでノーベル賞を獲得するなど自らの社会的地位を高めたい」「他の誰もまだ発明していない製品を発明してイノベーションを引き起こすことで多額の特許料・特許収入を獲得したい」という「私」的利益の追求(個人的動機)は、新しい科学的発見や技術的発明をもたらし社会を発展させるという「公共」的利益の追求(公共的動機)と共存していることが多い。
それゆえ重要なことは、「公共」的利益の追求と「私」的利益の追求の両立をどのように図るのかということである。
 
視点2 free riderの利用・存在を排除するprivate goods(私的財、商品) vs free riderの利用・存在を積極的に認めるpublic goods(公共財、公共的サービス)
営利企業である民間テレビ局は、スポンサー企業からより多くのCM放送(private goods)収入を獲得するために、すなわち、自らの私的利益追求のために、より多くの視聴者に対してより多くの「無料のテレビ放送番組」(public goods)を見てもらうことで「より高い総視聴率」(=より多くのfree rider)を獲得しようと躍起になっている。
営利企業である民間テレビ局は、放送事業を通じて、「無料のテレビ放送番組」というpublic goodsの提供と、「有料のCM放送」というprivate goodsの提供を同時に行っている。民間テレビ局はそのようにすることで、視点1におけるpublicとprivateの両立を図っている。その意味でNHKとは異なる意味においてではあるが、民間テレビ局も公共的存在である。
 
視点3 知的財産権(特許権、著作権など)に関する法的保護によるfree riderの利用・存在の排除 vs 知的財産権(特許権、著作権など)に関する法的保護期間の有限性によるfree riderの利用・存在の積極的承認
著作権の法的保護期間の延長による「私」的利益の追求 vs 著作権の法的保護期間の短縮による「公共」的利益の追求
TPP対応で日本が保護期間を死後70年に延長した場合には、著作物がpublic domainとなるまでの期間が長くなるため、下記のようなことが問題となる。
1) 著作権使用料の国際赤字の増大・恒常化による、日本の国益侵害
「日本は知財分野のうち特許を除く著作権ビジネスで6000億円超の貿易赤字を抱える。このうち対米赤字は約3000億円に上る。日本は古い作品による国外収入はほとんどない。逆に、古い映画や音楽で稼いでいるのが米国だ。このため、延長となれば、日本は赤字が固定化するだけでなく、「年間100億円程度支払いが増えていく」」大堀達也(2013)p.91
2) 著作権処理コストの増大による「死蔵」作品の増加
著作権保護期間にある著作物に関して、著作権者が死亡した場合には著作権を承継した遺族・相続人を見つけて全員の許諾を得る必要があるが、著作者の死亡から時間が経てば経つほど相続人の数が増加し、関係者全員とのコンタクトが取れないとか、たった一人の関係者の反対で利用ができなくなる可能性が高くなる。関係者全員の許諾を取るための著作権処理コストの増大は、死蔵作品の増加につながり、文化活動の社会的発展の阻害要因となる。
3) 著作権の法的保護期間の増大による、2次創作活動の停滞
「実は、原作が著作権切れとなったことで、ヒットした2次創作は意外に多い(表)。劇作家の平田オリザ氏は、「2次創作により原作そのものにも光が当たり、新たな発見が生まれる」と言う。実際、平田氏は最近、この問題に直面した。同氏は来年にもフランスの哲学者で実存主義の巨人サルトルの著作「出口なし」を基にした演劇を上演する予定で公演の準備を進めていた。サルトルの著作権はいまだ切れていないが、これまで他の劇作家が遺族から許諾を得られなかったという話は聞いていなかったので、権利処理については楽観していた。ところが、遺族からは「上演を認めない」という連絡が来た。
原因は平田氏の革新的な試みにあった。というのも、今度の演劇の役者は、人間ではなくロボットだからだ。平田氏が主宰する劇団「青年団」は大阪大学ロボット演劇プロジェクトに参加し、「アンドロイドによる演劇」という新境地を作ろうとしていたが、その先進性が足かせとなって遺族の許可が下りなかった。遺族が許可しない限り、上演できるのはサルトルの著作権が消滅する2030年。もし、死後70に延長されれば2050年に上演可能になるが、「そのころには僕は死んでいる」(平田氏)。」大堀達也(2013)p.91
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[出典]大堀達也(2013)「著作権延長は日本の衰退招く 「ミッキーマウス法」が対米赤字3000億円を拡大させる」『週刊 エコノミスト』〔特集〕著作権の文化経済学, 2013年12月10日号,p.92
 
2. 情報分野でのイノベーション推進におけるpublic vs private問題
  1. 著作権法によるprivateな利益の追求 vs 著作権法によるpublicな利益の追求
  2. 著作権法によるイノベーションの社会的阻害 vs 著作権法によるイノベーションの社会的推進
 
3. イノベーション vs 著作権
  1. 古川亨(2007)「元米マイクロソフト副社長・古川亨 著作権70年は長すぎ」『日本経済新聞』2007年07月02日朝刊
  2. 中山信弘(2009)「著作権は開発の壁でいいのか — 損せぬ人にもうけなし」
  3. 堀越(2010)「ネット時代の規制を考える3冊 — 「時代にそぐわない著作権法は変えるべき」サイバー法の第一人者、レッシグ教授の著作」『日経コミュニケーション』2010年7月号,p.70
 
4. TPP対応による著作権の法的保護期間の延長問題
  1. 公益財団法人 著作権情報センター「著作権の保護期間はどれだけ?」
  2. 横山三加子(2015)「著作権70年 2次創作・利用に懸念 政府、払拭に努め」『毎日新聞』2015年12月9日 東京朝刊
  3. 大堀達也(2013)「著作権延長は日本の衰退招く 「ミッキーマウス法」が対米赤字3000億円を拡大させる」『週刊 エコノミスト』〔特集〕著作権の文化経済学, 2013年12月10日号,pp.90-92[配布資料]
  4. 香月啓佑(2013)「著作権延長は日本の衰退招く ウィキリークスが暴露 延長派と反対派が拮抗」『週刊 エコノミスト』〔特集〕著作権の文化経済学, 2013年12月10日号,p.93[配布資料]
  5. 「著作権の保護期間延長で「青空文庫」に余波 山本周五郎や三島由紀夫、無料で読めるのは当分先に」J-CASTニュース、2015/10/ 6 19:48
  6. 「TPP合意対応、保護期間延長や非親告罪含む著作権制度見直し案まとまる」
 
5. 新結合としてのイノベーション
 
6. 自由な新結合を妨げる法的障害としての著作権
  1. 野口祐子(2011)「著作権法はイノベーションの邪魔をする?」『日経アソシエ』2011年06月21日号,pp.62-63
 
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