情報公共論 2016.05.10

[前回の授業内容]情報公共論2016.04.28
[次回の授業内容]情報公共論2015.05.17
1.私的財の必要性・有用性を示す「コモンズの悲劇」 vs 共有財の必要性の必要性・有用性を示す「アンチコモンズの悲劇」
「コモンズの悲劇」で取り上げられているコモンズとしての牧草地は、ある場所の牧草を一頭の牛が食べると、その牛が食べた場所の牧草を他の牛が食べることができない。その意味で、「コモンズの悲劇」問題は「消費における競合性」(rivalrousness)問題でもある。
もちろん一頭の牛が食べる量には一定の限度があるので、牧草地の面積に対してその牧草地にいる牛の数が少ない場合にはそうした「消費における競合性」は顕在的な問題とはならない。
 「コモンズの悲劇」が問題としているのは、牛の頭数が牧草地が許容する限界頭数を超えた場合に生じる状況である。これは「宇宙船地球号」という概念を利用しながらローマクラブが問題提起した人間社会の成長・発展に対する地球資源の有限性問題と同じ論理的構造である。
すなわち、地球環境問題などで問題とされる地球資源の有限性問題は、大気や海などの地球資源が19世紀までの人間社会の「生産=消費」活動レベルでは「消費における競合性」が問題とはならなかったが、20世紀後半以降になり「消費における競合性」が問題となったということを意味している。

[参考図]資源エネルギー庁(2013)「世界のエネルギー消費量と人口の推移」『エネルギー白書』p.8 [pdf版]

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[考察してみよう]
コモンズに該当する具体的対象としては、 地球レベルものから地域社会レベルのものまで多様なものが存在する。したがってコモンズとして捉えることができるすべての具体的対象に関して「コモンズの悲劇」が成立するわけではない。
それはどういうことなのかを具体例を挙げて説明しなさい。すなわち、「コモンズの悲劇」問題が成立しないようなコモンズの具体例を挙げるとともに、コモンズであるにも関わらずなぜ「コモンズの悲劇」問題が成立しないのかを説明しなさい。
 

2.公共財の公共経済学的定義 — 「消費における非-競合性(non-rivalrous)」と「フリーライダーの非-排除性(non-excludable)」という二つの特性を持つ財としての公共財
三省堂『大辞林』では、「公共」という用語は「おおやけのものとして共有すること」として定義されている。また岩波書店『広辞苑』第4版では、「公共財」という用語は「その便益を多くの個人が同時に享受でき、しかも対価の支払者だけに限定できないような財貨・サービス」として定義されている。公共財に関する後者の『広辞苑』第4版の定義は、公共財に関する公共経済学的定義に基づくものである。
公共財(public goods)は、公共経済学においては、「消費における非競合性」「フリーライダーの排除不能性」という二つの特性との関連で定義されている。
そのように定義されている主要な理由のうち、いくつかを下記に挙げる。
 
ポイント1. rivalrousという特性を持つ財に関しては、「利用者から料金を取ることが正当である」と考えられる。
rivalrousな財の利用は制限せざるを得ない(そうでないとコモンズの悲劇と類似の問題が発生する)が、そうした制限の手段の一つが料金の徴収である。首都高速道路の利用料を無料にすると混雑が極めて激しくなり、高速道路としての意味がなくなってしまう。excludable(フリーライダーを排除する)とすることで、すなわち、利用料を払った人だけが利用できるようにすることで、高速道路というgoodsがその本来的機能を果たすことができる。
 そのようにexcludableにできるgoodsに関しては、その提供を政府・自治体・非営利組織など公共的組織のみに限定する意味はあまりない。利用対価や販売代金を取ることができるそうしたgoodsに関しては、なるべく数多くの企業に提供させて、goodsの「質」、「提供可能な量」、「価格」などに関する自由競争をさせる方が社会的により好ましい、と一般には考えられている。

ポイント2. 上記とは逆にnon-rivalrousという特性を持つ財に関しては、財の維持・管理・再生産の費用が「一定数の顧客からの利用料金・販売代金でまかなうことができる」財[すなわち、一定以上の固定費はかかるが変動費がゼロに近い財]であれば、その一定数を超えた顧客・利用者から料金を取らないことも選択肢として考えられる。また財の維持・管理・再生産の費用がほぼゼロに近いような財[すなわち、固定費も変動費もほぼゼロに近い財]であれば、「free riderを排除せず、利用者から料金をまったく取らないことが正当である」と考えられる。
[考察してみよう]明治大学図書館も、その維持・管理・再生産の費用を一定数の学生からの授業料収入でまかなうことができる。そのため、rivalrousにならない範囲内で、free riderの利用を認めている。それは具体的にはどういうことなのかを考えてみよう。
 
ポイント3. free riderを排除できない(利用料金や販売代金を徴収することができない)non-excludableな財に関しては、営利企業による持続的提供は期待できない。非営利組織・政府・自治体など公共的組織に期待するほかない。
広告・宣伝など結果的に自社の売上拡大や営業利益増大につながる場合には、営利企業もnon-excludableな財を提供し続けることができる。しかしそうではなく、結果的にも自社の売上拡大や営業利益増大につながらないようなnon-excludableな財を自社の営業活動の一環として継続的に提供し続けることは一般的には困難である。

料金を支払わずに
利用しようとする
free riderを排除可能
(excludable)
料金を支払わずに
利用しようとする
free riderを排除困難
(non-excludable)
多数の人々による
同時利用が困難
(rivalrous)
私的財
(private goods)
common goods
多数の人々による
同時利用が可能
(non-rivalrous)
club goods 公共財
(public goods)
 
[考察してみよう]
授業では、rivalrousかつnon-excludableなgoods(common goods,Common-pool resource)の例を取り上げなかったが、英語版wikipedia「Common-pool resource」では下記のようにfish stocks, timber, coalが例として挙げられている。
(1) common goods(common-pool resource)に該当するgoodをどれか一つを取り上げて、「それがどのような意味でRivalrousかつNon-excludableな財(goods)とされているのか?」に関して説明をおこなうこと。
(2) 次に、自らがcommon goods(common-pool resource)に該当するものとして取り上げたgoodが、本当にrivalrousかつnon-excludableなgoodであるのかどうかに関して考察をおこなうこと。
 
excludable non-excludable
rivalrous private goods
food, clothing, cars,
parking spaces
common goods
fish stocks, timber, coal
non-rivalrous club goods
cinemas, private parks,
satellite television
public goods
free-to-air television, air,
national defense
[出典]英語版wikipedia「Common-pool resource」,理論的整合性を保つため、Common-pool resourceをcommon goodsとするなど、表現を一部訂正した。

 
3.club goodsの具体例
下記では、上記のポイント2で論じられている「一定以上の固定費はかかるが、変動費がゼロに近い財」という理論的定義に当てはまる具体的事例として、一定の範囲内でnon-rivalrousである(それゆえ一定の会員数に限定する必要がある)とともに、free riderの排除が法的・技術的に可能なexcludableであるclub goodsとしての、TV電波、BS(放送衛星)電波、CS(通信衛星)電波、携帯電波、公衆無線LAN電波などを利用したテレビ放送サービス、動画配信サービスを取り上げる。
 
4.消費における競合性(rivalry, rivalrousness)に関する複数の視点からの議論 — free rider排除の社会的妥当性
 
本日の授業では 「消費における競合性」(rivalrous)概念に関する、下記三つの主要論点の内の第1の論点を主として取り上げた。
 
論点1.「一定限度=許容限度内における消費の非競合性」と「一定限度=許容限度を超えた場合における消費の競合性」
論点2. 同一財における 「消費の非競合性」と「消費の競合性」という二つの特性の共在(利用法・利用場面の差異による特性の違い)
論点3. 「共時」的消費における競合性 vs 「通時」的消費における競合性

 
消費の競合性の相対性という第一の論点に関する理解が必要—「コモンズの悲劇」問題も利用者数が一定以上を超えた時に発生する問題である。一定数以下であれば、消費の競合は問題にならずsustainableな利用が可能である。
個々の座席で見れば、新幹線の指定席や自由席、および、図書館における座席などは、「ある人が利用している座席を他の人が利用できない」という意味のおいて排他的利用が問題となるが、利用者の全体的数が座席数全体に対して相対的に少ない場合には、「ある時間帯の新幹線の便全体、あるいは、図書館全体では、空いている席を必ず見つけて利用できる」という意味において、新幹線の着席利用、および、図書館の着席利用それ自体はrivalrousではない。
 
[考察してみよう]
日本語版ウィキペディア「非競合性」で非競合性を持つgoodsに位置づけられている「映画」、「図書館」についても、そうであるのはある一定の制約条件のもとにおいてであり、実際には競合性が問題となる場合もある。
それはどういうことなのかをわかりやすく説明しなさい。
 
5.free riderの排除可能性(excludability)に関する複数の視点からの議論 — Free rider排除の根拠および方法に関する法的議論(法的権利)、経済的議論(経済的合理性)、技術的議論(技術的可能性)[次回論じる予定の論点]
 
[関連復習事項]
1.スマホの製造メーカーが「無料」で利用できるGoogleのAndroid OS
 
2.公共財(public goods)と情報財(information goods)の共通集合としての公共的情報財(public information goods)
公共財(public goods)の定義と情報財(information goods)の定義および特性の両方を理解することが必要
 
3.情報財(information goods)の定義および特性
情報財を構成する2種類の財・・・「コンテンツ」系情報財と「プログラム」系情報財
情報財の特有性としての、「限界費用の低さ」と「私的占有の困難性」

 
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