経営技術論2015.07.02

[前回の授業概要]経営技術論2015.06.25
[次回の授業概要]経営技術論2015.07.09
 
[今回の授業のポイントおよび前回の授業の補足]
 
1. 「乗り換えなしで直通で行くことができる駅の数の増大」に起因するネットワーク的バンドワゴン効果
線路幅が同一であれば、異なる路線間をつなぐ直通運行が可能になる。鉄道に関する直通ネットワークの拡大は、乗り換え作業が不要になることによる駅間移動時間の短縮という意味における便益増大(有用性の増大)という視点からだけでなく、「直通駅リンクの数」の増大によるネットワーク的バンドワゴン効果の増大という視点からも評価することができる。
このことは次のような形で理解することができる。
 
「旅客」視点から見た、「乗り換えなしに直通で行くことができる駅」というネットワーク集合と「乗り換えなしに直通では行くことができない駅」というネットワーク集合の区別
「宇都宮線と横須賀線」、および、「高崎線と東海道線」を新宿経由で相互直通運転する湘南新宿ラインの開通がそうであったように、「宇都宮線、高崎線、常磐線内の駅から東京駅・品川駅に直通でいける」とか、「東海道線の各駅から上野駅に直通でいける」ようにした上野東京ラインの開通は、一種の「イノベーション」である。上野東京ラインができる以前は東京駅と直通では結ばれてはいなかった高崎線内や宇都宮線内の各駅が東京駅と直通で結ばれるようになったことは、「新幹線への乗り換え作業が2回から一回へと半減する」という意味でも大きな便益増大である。新幹線での長距離旅行では旅の荷物が多くなるため、乗り換え回数が1/2になるということは大きな有用性を持っている。
「直通で結ばれている駅」というネットワーク集合、すなわち、直通駅ネットワークにおける相互直通リンクの数が、上野東京ライン開通という「イノベーション」によってどのように変化したのかをモデル的に考えると次のようになる。(下図の上半分は、上野東京ライン開通前の直通駅ネットワークのあり方を示したもので、分断された二つの直通駅ネットワークが描かれている。下図の下半分は、そのように分裂していた二つの直通駅ネットワークが上野東京ライン開通によって一つの直通駅ネットワークへと統合された後の直通駅ネットワークを示したものである。)
station-network2015-07-02
 
上に示したように、「直通」できない路線ネットワークとして分断されていた鉄道路線を「結合」して一つの統合的ネットワークへと改編させることは、「直通」可能な駅というネットワーク集合に属するメンバー数を大幅に増大させ、直通駅リンクの数を大幅に増大させる。
電話ネットワークやFAXネットワークの場合には、直接的に音声やFAXでコミュニケーションを取ることのできるリンク、すなわち、コミュニケーション・リンクの数によってネットワークの便益を評価することができる。それと同じく、鉄道ネットワークの場合には、駅と駅の間をつなぐ相互直通リンクの数によって直通駅ネットワークの便益を評価することができる。
 互いにコミュニケーションを取ることができる電話ネットワークやFAXネットワークにおける電話やFAXの数に対応するのは、直通で結ばれている駅の数である。互いにコミュニケーションを取ることができる電話やFAXの数が増大するとコミュニケーション・リンクの数が増大したように、直通で行くことができる駅の数が増大すると直通駅リンクの数が増大する。
 その意味で電話ネットワークやFAXネットワークにおけるネットワーク効果的バンドワゴン効果と同様のことが、直通駅ネットワークにも該当すると考えることができる。
 
[考察してみよう]
東京都心部におけるコミュニティーサークル社会的普及のための対応策を、下記の記事を参考にしながら上記の視点から議論し、考えてみよう。
「コミュニティーサークル「ちょい乗り」普及足踏み — 手続き煩雑・拠点少なく」『日本経済新聞』2015年7月4日朝刊
「千代田区コミュニティーサークル実証実験」
「江東区コミュニティーサークル実証実験」
「港区コミュニティーサークル実証実験」
 
[参考]ネットワーク的バンドワゴン効果とは区別すべき、直通運行に関わるネットワーク結合の意味
1) 「貨物」視点から見たネットワーク効果 — 「積み替えなしで直送できる」こととしての直通運行ネットワークの有用性
2) 「鉄道」会社視点から見たネットワーク効果 — 「直通運転が可能な路線・駅の数」「車両の滞泊・整備・検査、列車の組成などの作業をおこうな車両基地が直通運転によって対応可能な路線・駅の数」が増大することに起因する直通運行ネットワークの有用性
ネットワーク効果利用のための、鉄道ネットワークの物理的連結に関する例外的対応(秋田新幹線的対応)
3) 「車両製造」会社視点から見たネットワーク効果 — 「製造した車両を直送できる路線の数」が増大することに起因する直通運行ネットワークの有用性
JRや大手私鉄など全国の鉄道会社向けに車輛を製造している東急車輛製造の工場は京急線の金沢八景駅に隣接する場所にある。同工場から車両出荷を出荷する場合には、同工場から金沢文庫駅の手前で京急線と合流させて、京急線内を運行させた後、京急線の神武寺駅付近で京急線からJR在来線・逗子駅につなぐ専用線路を利用してJR在来線に運べるようにしてある。
 同工場から延びた線路の軌道幅は、JR在来線と同一の1,067mmであるが、京急線の線路幅は新幹線と同じ1,435mmとなっているため、車両出荷のために経由線として利用する京急線の線路の一部は、レールを3本(3線軌条)として両方の線路幅に対応できるようにしてある。
[参考資料]
  1. 杉山淳一(2009)「線路幅は違うのに……実は、京浜急行とJR横須賀線の線路は繋がっている」マイナビニュース・鉄道トリビア13, 2009/07/31
  2. JR東日本「秋田新幹線の歴史」
  3. 三線軌条部分の場所を示す地図
  4. 新潟県商工会議所連合会(2009)「[参考資料]直通運転化の手法(ミニ新幹線、フリーゲージトレイン)について」
  5. 北海道庁 総合政策部 交通政策局新幹線推進室「北海道新幹線に関するQ&A」のQ.9
  6. 国土交通省鉄道局「青青函共用走行の検討状況について」
 
 
2. G3 FAXという製品イノベーションの社会的普及を促進した二つの要因 — G2 FAXからG3 FAXへの切り替えに伴う2種類の「便益」(benefit)増大
G3 FAXという製品イノベーションの社会的普及は、下記に詳しく述べるように、
(1) イノベーション初期における性能差異化に基づく製品普及
(2) イノベーション中期におけるFAXネットワークのコミュニケーション・リンクの数の大きさによる差異化に基づく製品普及
という2段階に分けて理解することが有用である。
顧客にとって、A1「旧世代製品それ自体の便益」(旧世代製品の機能や性能によって規定される便益)+A2「旧世代製品ネットワークの便益」(旧世代製品FAX間のコミュニケーション・リンク数の大きさに比例する便益)よりも、B1「新世代製品それ自体の便益」(新世代製品の機能や性能によって規定される便益)+B2「新世代製品ネットワークの便益」(新世代製品FAX間のコミュニケーション・リンク数の大きさに比例する便益)の方が大きい場合に、旧世代製品から新世代製品への切り替えが検討されることになる。
 新世代製品が販売開始されたばかりの製品イノベーション初期段階では一般にそうであるが、「新世代製品」のG2 FAX製品の登場初期には「旧世代製品」のG1 FAX製品よりも総設置台数が少なかった。それゆえ製品イノベーション初期段階では、B2「新世代製品ネットワーク便益」はB1「旧世代製品ネットワーク便益」よりも小さい。
 それゆえ「新世代製品FAXでの新機能や性能向上の実現による便益増大」A2A1の大きさが「新世代製品FAXネットワーク便益」と「旧世代製品FAXネットワーク便益」の差strong>B1B2を上回るような顧客のみが新世代製品の採用を検討することになる。
 しかも短期的な視点から新世代製品の採用の経済的合理性が判断された場合には、便益増大の総和1[(A2B2)-(A1+B1)]が、新世代製品の採用のスイッチング・コストの総和(旧世代製品に代わって新製品を採用しようとした時に必要とされるコストの総和)よりも大きくなければならない。
 
[考察してみよう]
下記の記事を上記の視点から議論してみよう。
「IC乗車券延伸なるか 主要10カード 全国利用めざす」『朝日新聞』2015年6月27日朝刊
 
(1) 製品本体の大幅な性能向上に伴う有用性の増大— 性能向上に基づく差異化による製品競争力の増大
1) 解像度が100dpiから200dpiに向上(「解像度」性能の2倍化)
2) A4一枚を送信するのかかる時間が3分間から1分間へと1/3に短縮した(「送信速度」性能の3倍化)
 
性能向上に基づく差異化による製品競争力の増大にも関わらず、新世代製品への切り替えにかなりの時間を要する理由
G1 FAXからG2 FAXへの製品イノベーションは、新世代製品が旧世代製品よりも性能が大幅に向上(送信性能が2倍に向上)していたことで、1972年の登場から10年後の1982年には前世代機のG1 FAXよりも設置台数で上回ることができた。
 新世代製品が旧世代製品よりも性能が大幅に向上(送信性能が2倍に向上)していたにも関わらず、新世代製品の社会的普及がなかなか進展しなかったのは、旧世代製品間で構成されているネットワークのコミュニケーション・リンク(FAXを互いに送受信可能なリンク)の数が、新世代製品が構成するネットワークのコミュニケーション・リンク(FAXを互いに送受信可能なリンク)の数よりも最初は多いためである。
 G2 FAXという製品イノベーションの初期段階では、FAXを互いに送受信できるという便益の大きさにおいて新世代製品は旧世代製品に比べて劣っている。地域を超えて送受信可能であるという機能、および、送信性能向上という便益をより高く評価するイノベーター顧客層 — たとえば、締切時間が毎日定時に来る新聞社では、他社を出し抜いて特ダネを掲載できることは競争優位確保に重要であった。逆に、同業他社がすべて報じているニュースを一社だけ掲載できないという「特落ち」は自社の競争優位を大きく損なうものである。そのようにニュースの速報性を最上位の価値(value)とする新聞社では、文字だけでなく画像を瞬間的に送ることができるFAXは競争優位確保のための重要な技術的手段であった。
 また警察ではFAXは捜査情報や指名手配情報の正確でより素早い技術的伝達手段として大きな意味を持っていた。
 そのような新聞社や警察といったFAX製品に対するイノベーター顧客にとって、旧世代製品よりも技術的性能が大幅に高いとか、旧世代製品にない機能を持っているといった特性を持つ新世代製品の便益は、製品価格の多少の高さや、コミュニケーション・リンクの数の低さという問題点を上回るものであった。
 新聞社や警察でのそうしたFAX利用では、他組織との送受信は基本的に重要ではなく、同一組織内での一定数の部署間での利用における快適さだけが重要な問題であった。同一組織内での利用という点からは、互いにFAXを送受信する部署の数だけFAXを購入すればそれで済むため、G1 FAXから G2 FAXへの製品イノベーション、G2 FAXから G3 FAXへの製品イノベーションの速やかな採用の採用によって得られる便益の増大は、そうした製品イノベーションの採用に要するコストの大きさを上回るものであった、と推定される。
 限られた数の部署間でのより素早い送受信や、よりきれいな画像の送受信が重要視される業務のためのFAXに関しては、旧世代製品から新世代製品への置き換えは比較的スムーズに進んだと考えられる。しかしそうではなく、発注書送信や注文書受信といった不特定多数の顧客からの送受信のためのFAXに関しては、送受信可能なネットワーク・リンクの数の大きさがより重要であるため、ネットワーク効果的バンドワゴン効果がイノベーションの受容・社会的普及に大きな影響を与えた。
 
(2) G3FAX製品本体どうしのネットワーク効果的バンドワゴン効果による有用性の増大 — コミュニケーション・リンク数の飛躍的増大という差異化による製品競争力の増大
「同一ネットワークに所属するメンバー数がn倍になると、ネットワークにおけるコミュニケーションリンクの数はn2になる」というネットワーク効果の特性に基づく製品競争力の増大
地域の壁、メーカーの壁で分断されていたG1 FAXネットワーク、メーカーの壁で分断されていたG2 FAXネットワークに対する、G3 FAXの優位性
G2 FAXでは基本的には同一メーカー間(あるいは同一製品間)でのみでしかFAXの送受信ができないというclosedなネットワーク・システムであったので、送受信可能なネットワーク・メンバーの数はかなり限定的であった。
 これに対して、G3 FAXでは異なるメーカー間(異なる製品間)でもFAXの送受信ができるというopenなネットワーク・システムであったので、G3 FAX登場の1976年から数年後の1982前後には、送受信可能なネットワーク・メンバーの数が、旧世代製品であるG1 FAXやG2 FAXのネットワーク・メンバーの数を追い越したのではないか、と推定される。
参考資料の北米におけるFAX設置台数の歴史的推移表から判断すると、1982年前後にはG3 FAXという新世代製品の送受信可能ネットワーク・メンバー数が、G1 FAXやG2 FAXという旧世代製品を追い越したため、 同一の製品種別の製品同士のネットワーク性に起因するバンドワゴン効果(ネットワーク効果)により、対前年比数十%以上の大幅な増加を続け、社会的普及が加速度的に進んだ、と推定することができる。
 
図3 北米におけるG3 FAX設置台数、および、対前年比の伸び率の1980年代における推移(1981-1989)
G3FAX-rate
 
3. G4 FAXという製品イノベーションの社会的普及の失敗に関わる理論的分析
G3 FAXからG4 FAXへの切り替えに伴うトータルの「便益」(benefit)増大とトータルの「切り替えコスト」(初期購入コスト、ランニングコスト、廃棄コスト、新規学習コストなどを含む全体的コスト)の相対的大小の問題
FAXにおける補完財的バンドワゴン効果に起因するG4 FAXという製品イノベーションの社会的普及の失敗問題の理解のためには、FAXという製品本体の製品イノベーションに関するcost/benefit分析だけでなく、FAXという製品の利用に必要不可欠な補完財製品(FAXの伝送回線)の製品イノベーションに関するcost/benefit分析も必要である。しかもその際には、互いの製品普及のために必要不可欠な相互補完財であるFAXと伝送回線それぞれを独立に取り扱うのではなく、総合的に取り扱う必要がある。
FAX_G1_G2_G3-b

FAXの社会的普及に関しては、新聞社など同一企業内における業務用途あるいは事務連絡用途のための業務用FAX、多数の異なる企業間における受発注作業や情報連絡用のための業務用FAX、一般家庭用FAXに分けての分析も必要である。

 
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