経営技術論2015.06.25

[前回の授業概要]経営技術論2015.06.18
[次回の授業概要]経営技術論2015.07.02
 
[配付資料]
A.JRの新幹線と在来線
  1. 日本経済新聞社(1991)「変わる市場支える技術1991 第12回 高速・大量輸送 ―― 超高速鉄道、”独仏特急”追う日本、在来線への乗り入れ課題」『日経産業新聞』1991年12月19日
  2. 朝日新聞社(2015)「フリーゲージ実用化暗雲、新幹線長崎デビュー目指すが・・・不具合のため耐久試験が中断」『朝日新聞』2015年6月19日夕刊(カラー版)
  3. 日本経済新聞社(2014)「フリーゲージ列車実験、JR西、2016年度から、北陸新幹線延伸にらむ」『日本経済新聞』2014年9月18日地方経済面、兵庫
  4. 日本経済新聞社(2015)「JR西社長 敦賀からフリーゲージ開始、2022年度に間に合わず」『日本経済新聞』2015年度2月20日地方経済面、近畿B
  5. 日本経済新聞社(2015)「北陸新幹線きょう開業、在来線も利用した高速鉄道網の整備による日本海側高速鉄道網の構築、新潟-富山-敦賀-大阪の直通視野に、新潟県「大阪へ一気通貫」」『日本経済新聞』2015年3月14日、地方経済面、新潟
B.電力ネットワーク問題— 東日本と西日本での電源周波数の差異、および、多国間送電網
C.FAXイノベーションの社会的普及問題
D.VTRイノベーションの社会的普及問題
 
[今回の授業ポイント]
1.製品イノベーションにおける経路依存性現象視点から見た鉄道の線路幅 — 既存ネットワークとの物理的結合に起因する経路依存性(その1)
(1) 京王本線 vs 井の頭線
京王電鉄という同一企業が管理・運営しているにも関わらず、井の頭線はその他の路線と線路幅が異なる。井の頭線の線路幅が1,067mmなのに対して、京王本線などそれ以外の路線の線路幅は1,372mmとなっている。京王電鉄が「新宿=吉祥寺」、「新宿=渋谷」、「吉祥寺=調布=京王八王子」、「渋谷=調布=京王八王子」といった列車運行を実現しない理由の一つは、線路幅の差異により「京王線と井の頭線とで電車の相互乗り入れができない」ためである。
 このように京王電鉄の現在の事業戦略を制約している線路幅の違いは、経路依存性に対する京王電鉄の歴史的選択の結果という視点から分析=理解することができる。
 
  1. 1882年開業の東京馬車鉄道(日本最初の馬車鉄道、私営の鉄道)は線路幅として1,372mmを採用した。東京馬車鉄道はその後、動力源として電気を使用するようになり東京電車鉄道と改称したが、線路は東京馬車鉄道時代のものを利用した。
  2. 東京電車鉄道、東京市街鉄道、東京電気鉄道の3社が合併して東京鉄道(のちの東京都電)が創られたが、3社とも鉄道の線路幅は1,372mmであった。
  3. 京王電鉄はその創業期に東京鉄道(のちの東京都電)への乗り入れを計画していたことなどから、線路幅を1,372mmとした。
  4. 府中駅 – 京王八王子駅(当時は東八王子駅)間は、最初から京王電鉄の路線であったわけではない。同区間の開業は1925年で玉南電気鉄道株式会社によるものであり、その当時の線路幅は1,067mmであった。
  5. 京王電鉄(当時は京王電気鉄道)は、1926年に玉南電気鉄道株式会社を買収し、1927年には線路幅を1,327mmに改修し、新宿駅=八王子間の直通運転を可能とした。
(2) JR在来線 vs JR新幹線
線路幅
JR在来線 1,067mm
JR新幹線 1,435mm
 
日本最初の蒸気鉄道に起因するJR在来線の線路幅に関する経路依存性
1872年(明治5年)における新橋=横浜間の蒸気機関車による鉄道営業(29キロメートル、所要時間ノンストップで53分)の「革新」性については下記参考資料の1が参考になる。同Webページの記述によれば、当時は1日に10里(約40km)を歩くのが普通であったため、同鉄道は1日近い行程を53分で行くことになり、初めて鉄道に乗った青年は「早キ事神の如し」という印象を持った。
 馬車鉄道の開業は蒸気鉄道よりも遅れ、1882年(明治15年)の東京馬車鉄道(私営の鉄道、新橋と日本橋の間での営業)であった。

 この日本の最初の鉄道である新橋駅=横浜駅(現 桜木町駅)間の蒸気鉄道の開業(1872年、明治5年)時に線路幅として1,067mmを採用したことが原因となり、JRの在来線の線路幅は1,067mmとなった。
 
高速走行時の安定性重視などを理由とする、新幹線でのより広い線路幅の採用
JRの在来線と新幹線では線路幅が異なっている。現在の新幹線車両の多くが在来線を走行できないのは、在来線の線路幅が1,067mm(狭軌)であるのに対して、新幹線の線路幅が1,435mm(標準軌)というように異なっているからである。そのため山形新幹線では、在来線の奥羽本線の狭軌を標準軌に改変することで新幹線の運行を可能にした。長崎新幹線では線路側の改変ではなく列車側の改変により新幹線車両が在来線を走行できるようにするフリーゲージトレイン(FGT)技術の採用が予定されている。
 
[考察してみよう]
問題1-1
日本のJRの在来線の線路幅が1,067mmという狭軌となったことを、経路依存性という視点から考察してみよう。また狭軌から広軌への改築という議論は、軍事輸送能力の強化を目的として展開された1880年代後半の議論、日清戦争(1894-1895)後の1896年に発足した逓信省軌制取調委員会(1896-1899)における調査・検討、鉄道院(1908年設立)初代総裁の後藤新平による標準軌への改軌案(「改主建従」案)と立憲政友会による反対論(「建主改従」案)の1910-1911年の改軌論争、内閣鉄道院総裁の仙石貢・添田壽一による広軌検討調査(1914-1916)、日中戦争開始後の1938年頃からの弾丸列車計画における広軌改築論など様々な議論があったにも関わらず、新幹線(1964)の登場までJRは狭軌がdominantであり続けた理由・メカニズムを考察してみよう。
 
問題1-2
満州における鉄道の線路幅の歴史的変遷、および、その変化の理由を調べて見よう。なおその際には、ロシア帝国や日本の影響、および、朝鮮半島における鉄道路線との関係の議論を必ず含めなさい。
[線路幅に関する参考資料]
  1. 青木栄一(1996)「鉄道ゲージの歴史地理学」『地理』41(11), pp.30~40.
  2. 青木栄一(2002)「書評 原田勝正:『日本鉄道史』」『歴史地理学』209(44-3), pp.39~41.
  3. 青木栄一(2002)「3フィート6インチ・ゲージ採用についてのノート」『文化情報学』(駿河台大学文化情報学部紀要) 9(1), pp.29-39.
  4. 朝日新聞社(1992)「狭軌の誕生 レールの幅:2(なんでもQ&A)」『朝日新聞』1992年12月09日朝刊
  5. 朝日新聞社(1992)「整備新幹線 レールの幅:4(なんでもQ&A)」『朝日新聞』1992年12月15日朝刊
  6. 井上勝(1909)「帝国鉄道の創業」鉄道時報局編『拾年紀念 日本の鉄道論 』鉄道時報局, p.32
    「ケージのことは第一の問題なりし、予もいささか欧人の所論を研究せしが、我国のごとき山も河も多くまた屈曲も多き地形上にありては3フィート6インチケージを適当とす。英国等のごとく4フィート8インチのケージにては過大に失し不経済なりとの説多きを占めたり。ことに現下の勢いにては広軌に100哩造るよりは狭軌にて130哩造る方が利もっとも多からんと予も思考したり。よってその説を隈公[大隈重信]に勧めたることもありしが、廟議終に3フィート6インチケージを採用するに決定せられたり。」
  7. 大隈重信「ゲージ論など鉄道創業の回顧」沢和哉編(1981)『鉄道-明治創業回顧談』築地書館
  8. 久保田博(2005)「軌間の選定」『日本の鉄道史セミナー』グランプリ出版、第4章
  9. 鉄道省(1921)「軌制問題」『日本鉄道史』中篇、鉄道省、第16章
  10. 永井信弘(2001)「京王 – 都営地下鉄新宿線相互直通運転開始の頃」『鉄道ピクトリアル』2001年7月臨時増刊号通巻704号
  11. 原田勝正(2001)『日本鉄道史 ― 技術と人間』刀水書房
 
問題1-3
日本では在来線の広軌化論が何度も退けられてきた。それにも関わらずなぜ新幹線の線路幅として在来線と異なる標準軌が採用されたのかを考察しなさい。
 その際には、新幹線網という「新世代」製品ネットワークの設計に際して、「旧世代」製品ネットワークである在来線(既存の鉄道レール、枕木、道床、路盤、橋梁、踏切などから構成されているシステム製品)をそのまま利用することのメリットとデメリットを比較考量しながら論じなさい。
 
問題1-4
在来線と新幹線とで線路幅が異なることは、「新幹線というイノベーションの社会的普及に際してどのような問題を引き起こしているのか?」「JRはそのことに対してどのような対応をしようとしているのか?」を考察しなさい。
 
[新幹線と在来線の関係に関する参考資料]
  1. 朝日新聞社(2015)「フリーゲージ実用化暗雲、新幹線長崎デビュー目指すが・・・不具合のため耐久試験が中断」『朝日新聞』2015年6月19日夕刊
  2. 日本経済新聞社(1991)「変わる市場支える技術1991 第12回 高速・大量輸送 ―― 超高速鉄道、”独仏特急”追う日本、在来線への乗り入れ課題」『日経産業新聞』1991年12月19日
  3. 日本経済新聞社(2014)「フリーゲージ列車実験、JR西、2016年度から、北陸新幹線延伸にらむ」『日本経済新聞』2014年9月18日地方経済面、兵庫
  4. 日本経済新聞社(2015)「JR西社長 敦賀からフリーゲージ開始、2022年度に間に合わず」『日本経済新聞』2015年度2月20日地方経済面、近畿B
  5. 日本経済新聞社(2015)「北陸新幹線きょう開業、在来線も利用した高速鉄道網の整備による日本海側高速鉄道網の構築、新潟-富山-敦賀-大阪の直通視野に、新潟県「大阪へ一気通貫」」『日本経済新聞』2015年3月14日、地方経済面、新潟
  6. 福井新聞社(2014)「 敦賀にフリーゲージトレイン実験線 北陸新幹線延伸合わせ導入目指す」2014年9月18日午前7時10分
  7. 鉄道新聞社(2014)「車輪の幅を変えられる新幹線!「フリーゲージトレイン」の最新型がお披露目」鉄道新聞2014/04/19 17:20
  8. 軌間可変技術評価委員会(2010)「軌間可変電車の技術開発に関する技術評価」
  9. 国土交通省鉄道局(2012)「軌間可変電車(フリーゲージトレイン)の技術開発状況について」第2回整備新幹線小委員会 配布資料
  10. 国土交通省鉄道局「軌間可変電車(フリーゲージトレイン)」
    参考動画として、新試験車両走行状況(H26.7)軌間変換イメージ動画などのリンクを含むWeb

2.経路依存性現象としての、日本における電源周波数問題 — 既存ネットワークとの物理的結合に起因する経路依存性(その2)
日本の電力会社が生産している交流電源という「製品」に関して問題なのは、東日本の電源周波数が50Hz、西日本の電源周波数が60Hzと異なっていることである。
 これは、交流の電源周波数をどの値にするかという歴史的過去における技術的決定が、東日本と西日本では異なっていたことによる経路依存性現象である。
 こうした差異は、日本の電力ネットワークを二つに分断するものであり、社会的=経済的に大きなコスト負担をもたらしている。
 
[参考資料]
  1. 日本経済新聞社(2015)「電力、東西融通2.5倍に、原発3基分、越境販売後押し、経産省、段階的に設備増強」『日本経済新聞』2015年4月16日朝刊1面
  2. 日本経済新聞社(2015)「電力の東西融通、最高、原発停止や卸取引拡大、昨年度62%増」『日本産業新聞』2015年4月16日
 
3.経路依存性現象の生成要因としての、製品のシステム性
製品イノベーションの展開過程が社会的普及に成功できるかどうかは、経路依存性に適切に対応できるかどうかに大きく左右される。経路依存性現象を生み出す重要な要因の一つが、製品のシステム性である。
製品のシステム性に起因する経路依存性現象は下記の二種類に分類することができる。
 
(1) 同一の製品種別の製品同士のネットワーク性に起因するバンドワゴン効果(ネットワーク効果的バンドワゴン効果)
ex.1 日本の電源周波数:東日本の電源ネットワーク 50Hz、西日本の電源ネットワーク 60Hz
ex.2 JRの線路幅:在来線ネットワーク 1,067mm、新幹線ネットワーク 1,435mm
ex.3 都営新宿線の線路幅を京王線と同じ1,327mmと共通化することによる相互乗り入れの実現
ex.4 FAX普及度の世代的差異:G1 FAX,G2 FAXは社会的普及の「広範化」に失敗したが、G3 FAXは成功した。G3 FAXよりも技術的に高性能なG4 FAXは社会的普及に失敗した。
FAX-installed_base_1966-1990
 
(2) 異なる製品種別の製品同士のシステム性(「製品」=「補完財」関係システム)に起因する補完財的バンドワゴン効果
FAX_G1_G2_G3-b
 
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