客観的事実の非-著作物性

 本判決においては、市場調査によって得られたデータは「事実若しくはデータ」であるだけでなく、「集積された客観的データ自体が思想性を帯びることはない」としてその著作物性が否定されている。
このことは、客観的な事実やデータを「公共的情報財」として位置づけたものと理解することができる。

原告:株式会社アイアールシー
被告:総合技研株式会社

本裁判は、アイアールシーが出版した『自動車部品二〇〇品目の生産流通調査』1996年版や『カーエレクトロニクス部品の生産流通調査』第三版に記載されている「自動車部品に関するマーケットリサーチにより得たデータ」を、総合技研が「そのまま盗用し、あるいはデータの数値をわずかだけ改変する」などして『主要自動車部品二五〇品目の国内における納入マトリックスの現状分析』1999年版という書籍を出版したことがアイアールシーの「著作権及び著作者人格権を侵害し又は一般不法行為を構成するとして、著作権法一一二条一項に基づき侵害行為の差止め等を求めるとともに、著作権法一一四条二項、民法七〇九条に基づき損害賠償を求めた」裁判である。

本裁判における原告の主張
原告書籍は、わが国の自動車メーカーの自動車部品の主要な部品別調達状況に関する調査、研究の結果を縦断的・横断的にまとめて表現した書籍であり、わが国のみならず世界においても他に類を見ない書籍である本件データにはすべて原告が独自に取材、調査し、それを総合的に判断し研究した結果である数値が記載されているところ、右数値は原告の思想を創作的に表現したものであるから、同部分が著作権法上の著作物であることは明らかである。
 
本裁判における被告の主張
ある著作が著作物といえるためには、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法二条一項一号)であることが必要であり、その作品自体に思想又は感情が創作的に表現されていなければならない。
 素材としての事実やデータは、それを認識する者の思想や感情に左右されない客観的な事象であり創作性を欠くものであるから、それが知的活動の結果として発見ないし取得されたものであったとしても、それ自体が著作物性を持つとはいえない。
原告書籍は、自動車部品メーカー及びカーエレクトロニクス部品メーカー等の会社名、納入先の自動車メーカー別の自動車部品の調達量及び納入量、シェア割合等の調達状況や相互関係をまとめたものであるが、会社名、調達量及び納入量、シェア割合等は事実若しくはデータであり、それを表現したものは思想又は感情を創作的に表現したものではない。
したがって、本件データは著作権法上の著作物には該当しない。

 
本裁判の判決結果(1) — 著作物性の否定

著作権法の保護を受ける著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(著作権法二条一項一号)。したがって、ある著作物が著作権法の保護を受けるためには、その著作物は「思想又は感情」が表現されたものでなければならない。
 しかしながら、本件データは、自動車部品メーカー及びカーエレクトロニクス部品メーカー等の会社名、納入先の自動車メーカー別の自動車部品の調達量及び納入量、シェア割合等の調達状況や相互関係のデータをまとめたものであって、そこに記載された各データは、客観的な事実ないし事象そのものであり、思想又は感情が表現されたものではないことは明らかである。
 原告は、本件データは原告が独自に取材、調査し、それを総合的に判断し研究した結果であり、そこには原告の思想が創作的に表現されていると主張する。しかし、原告が主張していることは、原告の一定の理念あるいは思想のもとに本件データの集積行為が行われたということにすぎないのであって、集積された客観的データ自体が思想性を帯びることはないから、原告の右主張は失当というべきである。
 よって、本件データは著作物性を有しない。
 
本裁判の判決結果(2) — 「客観的な情報(ないしデータ)」に対する排他的=独占的権利付与に対する慎重な取り扱いの必要性>一般不法行為法における要保護利益の否定
データ自体は、仮にその集積行為に多額の費用、時間及び人員を費やしたものであったとしても著作権法の保護の対象となるわけではない。しかしながら、このような情報の集積行為及びそれによって得られた情報の全てが法的に保護すべき価値を有しないというわけではなく、このような情報が特別法により保護される場合(不正競争防止法二条一項四号ないし九号)は存するし、一定の場合には、民法七〇九条によって保護されることがないとはいえない。
しかしながら、本来何人であっても接することができ、あるいは利用することができる客観的な情報(ないしデータ)について、特定の者に排他的な権利を付与することはそれ以外の者が当該情報を利用する機会を奪い、その活動を制約するものであるから、前記のような特別の法の規定がないものについて一般規定である民法七〇九条による保護を与えることは慎重でなければならない。

これらのデータは、原告が主張するとおり、自動車部品の流通業界においては有用性が高いものであると認められるから、原告書籍が発刊された平成七年又は平成八年当時においては一定の財産的経済的価値を有し、保護され得たと解する余地がある。しかしながら、原告書籍が発刊された後においては、右データはだれもが利用可能な状態に置かれたことになるから、発刊直後に原告書籍をデッドコピーした書籍を発行するといった行為を除いて、そのような状態に置かれた右データを利用する行為が直ちに不法行為を構成するということはできない。
 

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