情報公共論2014.05.20

[前回の授業内容]情報公共論 2014.04.29
[次回の授業内容]情報公共論 2014.05.27
 
[前回の小テストに関するコメント]

/答案の記述について/

問題文の内容の理解に関して、教員の想定外の「理解」に基づく答案が多かったので、少し厳しい採点となった。
なお「NHKが徴収しているのは、テレビ放送を受信する設備に対する受信料であって、テレビ放送の視聴サービスに対する対価としての視聴料ではない」ことを理解している答案は予想よりも多かった。すなわち、受信契約締結の法的義務は、「放送受信設備の設置」にともなって発生するものであり、「視聴サービスの利用」にともなって発生するものではないこと、それゆえ「NHKの放送をまったく視聴していない」としても、そのことを受信料拒否の理由にすることは法的には不適切な行為であることを理解している答案は予想よりも多かった。

/問題文の意図について/

前回の小テストで問題としていたのは、NHKの放送ビジネスに対するそうした法的義務の倫理的妥当性の根拠である。すなわち、「放送法による受信料の法的義務規定はどのような意味において社会的正義にかなっているのか?」「NHK受信料という法的義務を強制することの倫理的根拠は何なのか?」という問いに対する答えを期待していた。しかし法的義務の倫理的妥当性を適切に説明している答案はほとんどなかった
すなわち、「NHK放送をまったく視聴していない」人々からも、「NHKが受信料を強制的に徴収することの社会的合理性はどこにあるのか?」に関して具体的に説明している答案はほとんどなかった。

そこで今回の授業では、「NHKが受信料を強制的に徴収することの社会的合理性」に関する批判的考察をおこなうこととした。

[今回の授業内容およびプラスアルファ]
1.NHKの政治的中立性と受信料を関連づける議論

今回の授業では取り上げなかったが、NHKの受信料の正当化論として一般的になされている議論の一つは、下記の1に挙げた「NHKの政治的中立性を保つためには視聴料ではなく、受信料という形態が必要である」という議論である。
 
資料1>NHK受信料をめぐる2010年6月29日東京高裁の判決
[出典]http://web.archive.org/web/20130119005420/http://www.tsukuru.co.jp/nhk_hanketsu.pdf
「放送事業が・・・国営企業又は公営企業のみで経営されると,国から独立して番組等を作成する放送番組の編集の自由,ひいては表現の自由との関係で問題を生じるおそれがある」

資料2>朝日新聞「用語解説:公共放送」『朝日新聞』2014年1月29日朝刊
[出典]http://www.asahi.com/topics/word/受信料.html
朝日新聞の本用語解説では「政府からの独立性や政治的な中立性を確保するため、受信料や寄付などで運営される」ものとして公共放送を定義している。
 
資料3>「「受信料で運営、政治的中立性保つため」 あす、「NHKと民主主義」シンポ/徳島県」『朝日新聞』2014年5月17日徳島地方版
NHK会長の籾井勝人、NHK経営委員の百田尚樹氏や長谷川三千子氏らの言動などによって、NHKの政治的中立性への社会的信頼が大きく揺らいでいる。このことに関して、『朝日新聞』2014年5月17日の徳島地方版に掲載された記事「「受信料で運営、政治的中立性保つため」 あす、「NHKと民主主義」シンポ/徳島県」は、徳島大学の饗場和彦教授の下記のような発言を紹介している。

「放送法が視聴者に支払いを義務づけた受信料でNHKが運営されているのは、政府からの独立性や政治的中立性を確保するためだ。公共放送の機能を果たさず、政府の広報機関に成り下がるのであれば、受信料を払う合理性はない」
 
[上記の問題に関してさらに進んで考えて見よう]
上記の1の議論に関連して下記のような問題を考察して見よう。
問a.裁判官の「政治」的中立性の担保の議論においては裁判業務を支える資金の出所が直接的には問題とはされないにも関わらず、なぜNHKの放送業務の場合にはそうしたことが問題となるのか?

問b.行政官僚の「政治」的中立性の担保の議論においては行政業務を支える資金の出所が直接的には問題とはされないにも関わらず、なぜNHKの放送業務の場合にはそうしたことが問題となるのか?

問c.放送法の第4条では、放送事業者に対して「一  公安及び善良な風俗を害しないこと。、二  政治的に公平であること。、三  報道は事実をまげないですること。、四  意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。」という4つの法的義務を課している。したがって政治的中立性はNHKだけでなく、民間放送事業者にも等しく課せられた法的義務である。
したがって「政治的中立性の確保」という目的の実現のためであれば、NHKだけではなく、民間放送局にも受信料を配分すべきではないのか?
言い換えれば、政治的中立性の確保ということだけから、受信料をNHKだけに独占的に配分することは正当化できないのではないか?

2.NHKの放送事業のユニバーサル性を根拠とする議論

NHKの受信料の正当化論として一般的になされている第二の議論としては、「ユニバーサルサービス(universal service)の提供のためには受信料によって支えられた公共放送が必要である」というものがある。すなわち、「東京や大阪などの大都市だけでなく、人口過疎地でもあまねく放送サービスを提供するためには、CM料金収入に依存しない公共放送局が必要である」というものである。こうした議論は、下記の資料4や資料5に見ることができる。
 5月20日の小テストでは、資料4や資料5のような議論に対して、インターネットの社会的普及という視点からの批判を取り上げた。すなわち資料4のような議論は、「テレビ放送に関するユニバーサルサービスの提供が困難であった地上波アナログ放送時代では妥当するが、衛星放送やインターネット「放送」などの新しい技術的手段が登場した現代ではあまり適切ではない」という批判を取り上げた。
「ユニバーサルサービス」論によるNHK擁護論に対する批判としては、授業や小テストで論じたように、「放送」番組を提供する技術的手段としては、電波塔(放送塔)によるテレビ電波送信という従来的手段だけでなく、衛星電波やインターネット通信といった新しい技術的手段が利用可能である、というものがある。
放送衛星(Broadcasting Satelite)を利用するBS放送や通信衛星(Communication Satelite)を利用するCS放送は、一つの衛星で日本全国に番組放送が可能であるから、全国に同一の番組を届けるという点ではテレビ電波を利用する地上波デジタル放送よりも、かなり効率的な技術的手段である。
またインターネットは、電子メール、ホームページ閲覧(WEBページ閲覧)とともに、ニコニコ動画やYoutubeなど動画配信も可能な「汎用」的な通信手段として、もっと効率的な技術的手段である。インターネット「放送」であれば、ブラジルなど日本から遠く離れた海外でも自由に日本の放送番組を視聴することができるから、視聴者にとっては優れた技術的手段である。

資料4>NHK受信料をめぐる2010年6月29日東京高裁の判決
[出典]http://web.archive.org/web/20130119005420/http://www.tsukuru.co.jp/nhk_hanketsu.pdf
「民営企業でのみ経営されると,放送事業が都市部に集中傾斜して,営利性の乏しいそれ以外の地域は顧みられなくなるおそれがある」
 
資料5>放送法 第15条
[出典]http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO132.html
「協会は、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送(国内放送である基幹放送をいう。以下同じ。)を行うとともに、放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い、あわせて国際放送及び協会国際衛星放送を行うことを目的とする。」

資料6>放送法 第15条

3.良質かつ良心的な番組の提供を可能にするための財源としての受信料
放送法の第15条における「豊かで、かつ、良い放送番組」という文言

 

4.放送に関するイノベーションのための財源としての受信料
放送法の第15条における「放送及びその受信の進歩発達に必要な業務」という文言
NHK「8Kスーパーハイビジョン」
http://www.nhk.or.jp/8k/
NHK「8Kスーパーハイビジョンとは?」
http://www.nhk.or.jp/8k/tech/index.html

NHK「2014 FIFA ワールドカップ ブラジル」 8Kスーパーハイビジョンパブリックビューイング(国内4会場)」
https://pid.nhk.or.jp/event/PPG0244003/index.html
ザテレビジョンWEB(2014)「ワールドカップは臨場感抜群の8Kで! NHKがライブパブリックビューイングを実施!!」2014年5月19日
http://news.thetv.jp/article/46855/

 

[配布資料]

 

[さらに進んで調べるための参考資料・データ]
1.「放送の公共性」関連

http://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/report/2006_11/061103.pdf

www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0516.pdf
(3)渡辺武達(1995)「メディアの公共性と公益性」『評論・社会科学』(同志社大学人文学会)52, pp.81-198
(4)放送の公共性に関する調査研究会(1990)『放送の公共性に関する調査研究会報告書』郵政省放送行政局, 115pp

2.日本民間放送連盟(2011)「NHK受信料制度等専門調査会報告書に対する見解」

3.「放送と通信の融合」関連
(1)吉野次郎(2006)「アクセルとブレーキを同時に踏むテレビ局」2006年4月3日
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20060330/100905/
(2) 吉野次郎(2006)「アクセルとブレーキを同時に踏むテレビ局」2006年4月10日
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20060406/101086/
(3)吉野次郎(2006)「新東京タワー建設を急げ ネットとのインフラ大競争待ったなし(前編)」連載<ネット狂時代、テレビ局の憂鬱— どうなる?「通信」と「放送」の融合>第3回、日経ビジネスオンライン、2006年4月17日
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20060414/101330/
(4)吉野次郎(2006)「新東京タワー建設を急げ ネットとのインフラ大競争待ったなし(後編)」連載<ネット狂時代、テレビ局の憂鬱— どうなる?「通信」と「放送」の融合>第4回、日経ビジネスオンライン、2006年4月24日
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20060420/101522/
(5)吉野次郎(2006)「芸能界とテレビの蜜月に変化あり— 有力コンテンツがネットにも触手」【第5回】2006年5月1日
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20060426/101724/
(6) 吉野次郎(2006)「経産省が後押しする —- 下請け番組制作会社の逆襲」第6回、2006年5月8日(月)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20060507/101923/
(7) 吉野次郎(2006)「ネット進出より“おいしい” —- キー局と地方局の関係、コンテンツ再利用にも系列をフル活用」第7回
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20060512/102117/
(8) 吉野次郎(2006)「通信・放送の大改革、NHK焼け太りでどこへ向かう? — 受信料収入減を埋めるネット進出にお墨付き」第8回、2006年6月8日
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20060607/103826/
(9) 吉野次郎(2006)「NHK受信料義務化で民放の「くだらない番組」が増える?」第9回、2006年12月14日
http://business.nikkeibp.co.jp/article/tech/20061211/115388/
 
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